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おのののおと

This Is A Blog Thinking About Nature And Life

街にクマはいない

Nature Traveling

昨日は卒業式でした。

ほとんどの学校がそうであるように、僕の通う学校でも、卒業文集を作ります。

僕は、この卒業文集に凝って凝って凝りまくりました。だけど、学校の先生や生徒の数は知れているので、もっとたくさんの人に見てもらいたいと思い、こうしてブログに載せました。

タイトルは、「街にクマはいない」です。

それでは、、、

 

 

街にクマはいない

 

ラジオから私の好きなアメリカのバンドの曲が流れだした。私は、曲を聴きながら、車の外を眺めた。

建物、高速道路の標識、山、何もかもが、あっという間に後ろへ流れていく。ついさっきまで長野県にいたというのに、もう兵庫県を抜けようとしている。なんて速いんだろう。そんなことを考えていると、何時間もかけて、十数キロの山道を歩いた時のことをふと思い出した。昨日の記憶のはずなのに、まるで嘘か夢のように感じられる。

 

その日。午前7時、私たちは槍ヶ岳山荘をあとにした。この日は標高3080mの槍ヶ岳山荘から大喰岳、中岳、天狗池、槍沢を通って、1460m下った横尾まで下山する予定だった。

大喰岳に着いたとき、沢の方から濃い霧がのぼってきた。霧はあっという間に私たちを包み込み、あたり一面を真っ白にしてしまった。数十メートル先を見るのがやっとでそれより先は全く見えない。

それでも、立ち止まるわけにはいかないから、道しるべを一つずつたどりながら、黒々とした岩と真っ白な霧しか見えない殺風景の中をただひたすら歩き続けた。

さっきまでは十分に一回くらいは他の登山客とすれ違っていたが、その数も徐々に減ってゆき、一時間もするとめっきり人に会わなくなってしまった。

あたり一面に転がっているごつごつとした岩々は、不気味な黒色を放っていた。人の顔くらいの大きさのもあれば、大人一人分の身長くらいのもある。ところどころ、とがった葉をつけたハイマツが黒い地面に緑の模様を描いていた。

視界を遮る濃い霧は、どこか黒っぽいような白色をしていた。じっとりと重くまとわりつく、液体のような感触だった。しかし、風はなく、霧はいつまでたっても晴れなかった。

何一つ動かない。静まりかえった殺風景は、まるで異世界のようだった。ここは果たして地球なのか、地球にこんな場所があるのか。そう疑った。

どこまで歩いても終わらないこのモノクロの世界は、私の思い描いていた緑や青の美しい自然とはかけ離れていた。山々は不気味さや恐ろしさを醸していた。まるで、私たちをここから逃がすまいとしているかのように。

私たちは静けさの中を無言でただひたすら、歩き続けた。どこまで行っても同じ景色が広がっていた。

何時間歩いたかもわからない。ようやく、緑が出てきた。天狗池まで降りてきたのだ。高度もだいぶ下がったようで、あたりの霧はいつの間にか消えていた。傍らには、小さな雪渓が残っていた。今までの、モノクロの景色とは打って変わって、花や草木や、雪や、水が姿を現した。私の目には、まるで天国のように映った。久しぶりに地球に帰ってきたような気分だった。

しかし、今日はこれで終わりではない。これから、槍沢に沿って歩いて、横尾山荘まで行かねばならない。

ここからは、ごつごつした岩場ではなく森の中のでこぼこの道が続いていた。岩場に比べると楽な道だが、私たちはもうすでにかなり体力を消耗していた。しかも、周囲を高い山に囲まれている上に、道は森の中をはしっているため、日の入りが早く、午後5時頃には薄暗くなってしまった。こんな時間に登山をしている人なんて滅多にいないので、あたりは静まりかえっていた。時折、風で森がざわざわと鳴った。

こんな時にクマでも出没すれば、、、。私はふとそんなことを考えた。その考えを頭からかき消そうと思ったが、しかし森の暗闇を見ると、どうしても脳裏から離れなかった。

私の不安が大きくなっていたその時、茂みの奥でがさがさと音がした。何が現れるのかと身構えた。

そこに現れたのは、横尾山荘のスタッフが運転している軽トラだった。しかも道の向こうを見ると、そこには確かに、明かりの灯った木造の山小屋があった。ようやく人のいる所へ帰ってくることができた。山小屋の中は、清潔で、新しいようだった。もちろん電気もあるし、浴場も備えてあった。おいしい食事も出てきた。それに、ベッドもあった。クマに襲われる心配もない。私は安心して眠りについた。

 

ラジオから流れていた曲は終わっていた。私は車窓を眺めながら、槍や、岩場や、森や、川を思い浮かべていた。時に美しく、時に恐ろしくも感じる大自然の姿を。しかし、今、窓から見えるのは、ビルや、車や、街ばかりであった。人々は忙しく蠢き、街の明かりは眩かった。それは山で見た景色とは何もかもが違った。そこにクマはいなかった。

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▲今日の一枚

「薄暗がり」